震災お見舞いの御礼と義援金について

このたびの震災による犠牲者の方々を心から悼み、また一人でも多くの方々のご無事を祈り、
被災者の方々のご健康と被災地の一日も早い復興を祈念致します。

今回の震災で、自宅も軽微な程度ながら被災致しました。

それにつきまして、多くの方々、また門弟からお見舞いのお言葉や物資の援助を賜りました。
ことに、関西地区、信州地区の皆さんには大変お世話になりました。
東北の被災地に比べればごく軽微で、申し訳ないほどのものですが、
お心遣いを頂きました方々に深く御礼申し上げます。

東北の被災地ではまだまだ物資の不足が深刻なようで、
大変心を痛めております。
当面必要以外の物資については、
少しでも現地にお送りして役立てて頂けるよう、考えております。

ありがとうございました。

 

なお、私の主宰する絃詩会としても、ほんのわずかながらでも被災地の方々のために力になりたいと考え、
来月よりしばらくの間、月謝の内一人当たり300円及び、当会会員からの志を、
毎月義援金としてお送りすることに致しました。

少しでも被災者の方々のお役に立つことができることを深く祈念しております。

原 一男

 

 

2011年度・絃詩会関東地区演奏会を9月18日 (日) に新宿区牛込箪笥区民ホールで開催します。詳しくは催し案内をご覧ください。

 

 
 

はじめに

 

 
胡弓という語の濫用について考える
中国に「胡弓」という楽器は存在しない

 

胡弓は日本独特の楽器  
誤解の構図  
  「胡弓」の安易な濫用が誤用を生む
  広義では弓で弾く楽器全体を指す呼称
  胡弓より琵琶や箏、三味線の方がはるかに中国のものと近縁
深まる混乱  
トラブルの発生  
正しい理解を  
胡弓、邦楽 ( 特に三曲関係の方へ)  

いまだに、日本独特の楽器である「胡弓」とはまったく別種の楽器である、中国の「二胡」を「胡弓」と呼称する例が一部に見受けられます。二胡と胡弓は別の楽器です。「胡弓」の呼称の濫用は止め「二胡」と正しく呼びましょう。

胡弓は日本独特の楽器

  ようこそ。ご訪問まことに有難うございます。

 さて、あなたは「胡弓」という楽器が世界中で日本だけにしか存在しないということをご存じですか?「えっ、胡弓って中国の楽器じゃないの?」と思われる方も多いと思います。もし、中国の音楽事典を見る機会のある方は是非調べてみてください。「胡弓」という語がまったく存在しないことが分かって頂けると思います。そう、中国に「胡弓」という名の楽器は存在しません。しいて中国語で「胡弓」という語を考えるとすれば、それは「西域民族の弓」ということになってしまいます。楽器ではなく武器としての。

 「胡弓」は日本にしかない言葉で、ほんらい日本独特、固有の、ある伝統楽器を指します。世界中で「胡弓」という名を持つ楽器は日本の本土と沖縄にしか存在しません(沖縄では「くーちょー」と発音します)。この上で回転している楽器がそれ、本土の胡弓です。明治27年に刊行された胡弓教本「胡弓の栞(当サイト「胡弓小事典」に解説あり)」には、「純粋に本邦発明の楽器なり」とあります。もちろん三味線や箏など他の多くの和楽器と同様、その起源は日本ではありませんが、胡弓の場合中国渡来を立証するものは何もありません。

誤解の構図

「胡弓」の安易な濫用が誤用を生む

 しかし一般 に「胡弓」といえば、中国の楽器、特に「二胡」のことだと思い込んでいる人が非常に多いのが現状です。それは「胡弓」という言葉がきわめて安易に広義的に濫用されることにより、いつの間にか本義を大きく逸脱して、濫用が誤用を生み、次第に本来の胡弓に対する認識が失われて来てしまった結果です。特に近年、二胡との混同がひどくなっています。

 数年前、ある通信教育業者が新聞等に「胡弓は中国の楽器」と明記した広告を掲載していることに付いて抗議、是正を求め、またその件についてJARO(日本広告機構)へ相談を持ちかけましたが、応対した相談員は胡弓と二胡の違いについて認識していたにもかかわらず、門前払いの扱いを受けました。

 

広義では弓で弾く楽器全体を指す呼称

 もちろん「胡弓」という語には広義として、「弓で奏する弦楽器全般 」を指す意味合いもあります。「広辞苑」では、「胡弓」の広義の意味として「東洋のリュート属の擦弦楽器の総称」としています。また音楽学者、故・田辺尚雄氏の「邦楽用語辞典(東京堂刊)」では、胡弓の語義の一つとして、明清楽の胡琴類(二胡、四胡など)も挙げています。これらをみれば、当然ですが広義としての「胡弓」の指すものがそもそもかなり漠然としたものであることが分かります。そしてまたこのあやふやな広義的使用が問題を生み出していると言えます。何と言っても、「胡弓」はもともと、江戸時代から日本独特の楽器である胡弓を指す言葉であり、あくまでもその本義の上に広義的意味合いが成り立っているのです。それをほとんど二胡に特定してしまうような用法は、明らかに誤りです。

胡弓より琵琶や箏、三味線の方がはるかに中国のものと近縁

 琵琶や箏(そう=こと) ならば、日本と同じ名称の楽器が確実に中国にもあり、それぞれ同じ祖先から分かれていることも明らかです。ですから中国の琵琶を「琵琶」、同じく中国の箏を「箏」と呼んでも何の問題も生じません。「三絃(三味線)」もまた同様です。しかし「胡弓」はまったく事情が違います。第一に、最初に挙げたように中国側に「胡弓」という名称を持つ楽器が存在しません。また日本の胡弓と中国の二胡とでは構造や奏法にもかなり大きな違いがあり、学術的にも類縁が実証されていないのです。つまり両者の近縁度は日中双方の琵琶や箏、三絃同士に比較してはるかに低く、同じ名称で呼ぶことは正しくないと言えます。したがって「二胡は胡弓である」とするなら、それは「犬は猫である」「梅は桜である」と言うに等しい、極めておかしなことになります。

 とうぜん国際的にもまったく通用しません。国際的認識に立てば「Kokyu」は日本だけにある楽器であり、「Erhu」は中国独特の楽器です。「Erhu」は「Kokyu」であると主張しても誰も認めてくれないでしょう。

 このような事態を招いた原因の一つとして、私たち当事者の責任もないとは言えないでしょう。胡弓をもっともよく使う三曲界からして、弓で弾くものを十把ひとからげに、何でも「胡弓」と呼んでいっこうに問題意識を感じない体質があります。またやはり音楽学者、音楽研究家の多くも、これまで「胡弓」の語を広義的に曖昧に使用し、きちんと定義立てするどころか、逆にその曖昧さを積極的に利用して来たような面すらみられます。これも結果として、本義と広義の混乱を招いた原因の一つということが言えると思います。しかし、たとえば私たち人間は哺乳綱霊長目に属する動物ですが、だからといって霊長目全体を「ヒト」と呼ぶことはありません。ところがこれまでの「胡弓」の呼称の広義的使用は、まさに霊長目全体を「ヒト」と呼ぶようなもので、非常にいい加減で、これでは混乱を招くのも当然と言えます。シタールやギターを「三味線」と呼ぶことも、ウードやリュートを「琵琶」と呼ぶこともないのに、なぜ「胡弓」のみ、このような曖昧な広義的呼称法で混乱させなければならないのでしょうか。

 食品の「そば(蕎麦)」も、もともとはソバという植物を指す言葉で、それから作ったから「そば」というわけです(本当は「そばきり」)。それが、いつの間にか小麦粉や米粉で出来ている細い麺まで「そば」と言うようになってしまいました。本家のそばはわざわざ「日本そば」と言って区別しなければならない状態で、これも好ましくない呼称法が一般化してしまった悪い例でしょう。胡弓もわざわざ「日本胡弓」「和胡弓」などと呼ぶ人もいますが、何しろ胡弓は日本にしかない楽器なのです。日本にしかない富士山や東京をわざわざ「和富士」「日本東京」などと言うでしょうか。それと同様、まことに滑稽な名称としか私には思えません。

深まる混乱

 私はこれまで、ことあるごとに「中国に胡弓という楽器は存在しない」と訴え続けて来たのですが、日本で活動されている二胡奏者の中にも、二胡を「胡弓」という名称で呼ぶ方がおられ(きちんと「二胡」と言う方もいますが)、誤解と混乱が生じています。

 むろん事情の分からない中国人ではなく、もともと安易に無節操に「胡弓」の語を使ってしまう日本人の方に原因があるのは当然のことです。

 「中国の二胡のことを胡弓と呼ぶ」などとと、とんでもない間違いを平然と明記している二胡関連サイトも少なからず見受けられます。これは明らかに誤りであり、知識不足の披瀝でしかありません。また「アジアの擦絃楽器を胡弓と呼ぶ」としている二胡サイトもあります。これは、広義としての意味において間違いではありません(本当はアジアに限らず、すべてのリュート属擦絃楽器を総称するものとした方が正しいでしょう。つまり、広義においてはヴァイオリンも「胡弓」です)が、大切なことは、それは決して本来の用法ではなく、まずそのような広義的用法以前に、あくまでも我が国固有の楽器としての「胡弓」が存在していた訳で、その「本義」を前提とした拡大解釈の上に、はじめて広義的用法が成り立っているということです。

 これらのサイトでは、日本伝統の楽器である胡弓や、あるいは中国以外のアジア各国の擦絃楽器に関する認識、知識が余りにも不足しているといわざるを得ません。もっとちゃんと勉強された上で、正しい情報を掲載して頂きたいものです。

トラブルの発生

 このような両者の混同によって、二胡を習いたい人が胡弓を買ってしまったり、胡弓の演奏を聴きたい人が「胡弓演奏会」に行ったら、じっさいは二胡の演奏会であったというようなトラブルも現実に起きています。「胡弓」と銘打ったCDを買ったら、二胡の演奏ばかりであったという例も少なからず起きています。

 また海外公演の際、帰国する時に税関で胡弓のケースを調べられることが多く(二胡などに張る蛇皮はワシントン条約により、天然のものは輸入が禁止されているので、「胡弓」と言うと係員に二胡と疑われる)、とんだとばっちりを被ったりもします。

正しい理解を

 ですから「胡弓」という言葉の広義的使用には、十分に節度を持って頂きたいと思うのです。特に二胡関係の方には、少なくとも「胡弓」という言葉を二胡と特定するような、あるいは極めて紛らわしい表現は止めて頂きたいと思います。それは誤用であり、そのために私たち胡弓の関係者が不要な誤解を受け、場合によっては不利益を被り、また一般 でトラブルすら起きているのです。二胡は胡弓とはまったく別の楽器なのであり、立派な「二胡」ということばがあるのですから、それをそのまま使うのが一番自然なことなのではないでしょうか。日本語式に「にこ」と発音しても、柔らかでとても良いひびきであると思います。違うものは違うのです。互いをよく理解、認識、尊重しあってこそ、真の国際交流が生まれるのではないかと思います。

 どうしても「胡弓」の語に愛着があるならば、せめて「中国胡弓」と呼んで頂きたいものです。

 当サイトでは、その点をよく理解、認識して頂いている二胡関連サイトとは、相互リンクさせて頂いています。

 いっぽう、胡弓関係の方にも「日本胡弓」「和胡弓」「大和胡弓」などという言い方は止めて、堂々と「胡弓」と呼称して頂きたいと思います。三味線や琵琶など、胡弓よりもはるかに類似した楽器が中国に存在するのに、「日本三味線」「和琵琶」などと言うことがないのと同様に。

 ようやく最近になって、二胡を「二胡」と呼称する人が増えて来たようです。また両者の区別を認識し、この問題を真剣に考えてくださる二胡関係者も多くなってきました。これは当然といえば当然のことですが、とても歓迎すべきことだと思います。このサイトもそのために一役買うことが出来たのならば幸いに思います。

 日本伝統音楽の一つの精華である胡弓音楽を、今後も発展させていくために、 このサイトを訪れてくださった 心ある方々にも共に考えて頂けるならば嬉しく思っております。またこのサイトを通じて、真の「胡弓」について理解を深めていただければ幸いです。

 

胡弓、邦楽 ( 特に三曲) 関係の方へ

 胡弓は日本にしかない楽器です。しかし現在この呼称の濫用により、本義が広義的呼称の便利さの犠牲になり、社会の中で次第に忘れられてきたことに私は強い危惧を感じています。冷静に見れば、胡弓はそう極端に珍しい楽器という訳ではなく、全国的にはそれなりに演奏する人も少なからず存在しています。そして三百年を超す歴史を有しています。この伝統ある日本の楽器を日本胡弓、和胡弓、大和胡弓などと呼ばず、どうか堂々と「胡弓」と呼んで頂きたいと思います。一歩身を引く謙虚さはかえって仇となります。胡弓は世界で日本にしかない楽器なのですから。

中国の楽器「二胡」について詳しく知りたい方は、二胡愛好家Kanaさんのサイト

にこにこ通 信〜二胡お稽古物語〜 

をご覧ください。

                    

 

胡弓